被相続人(A)の死亡後、その相続人(B)が、熟慮期間内に、相続の承認又は放棄をせずに死亡してしまっているケースがあります。このような場合を「再転相続」といいます。
代襲相続の場合は、被相続人の相続開始以前に相続人が死亡していますが、再転相続の場合は、被相続人の相続開始後に相続人が死亡している点で違いがあります。なお、被相続人の相続開始後に相続人が死亡していても、既に相続の承認又は放棄をした後に死亡しているケースは、ここで説明する再転相続の問題ではありません。

再転相続の場合、Bの相続人(「再転相続人」C)は、Aの相続について承認又は放棄をする権利(相続の選択権)を、Bの地位を承継することで取得するものと解されています。
もっとも、相続放棄は相続開始時に遡って効果を生じるため(民939) 、Cが後からBの相続を放棄したときに、先行して行われたAの相続の選択権の行使が無権利者による意思表示として無効になるのではないかという問題が生じてきます。

この点について、Aの相続を放棄した後にBの相続を放棄したというケースで、最判昭和63.6.21家月41・9・101は、①Cが先にBの相続を放棄した場合は、その放棄によりCが有していたAの相続の選択権を失うことになるから、その後、CはもはやAの相続について承認も放棄もできないとした上で、②CはBの相続を放棄する前であればAの相続を放棄することができ、かつ、Cは、Aの相続放棄をした後にBの相続について承認だけでなく放棄をすることもでき、また、③CがAの相続を放棄した後にBの相続を放棄した場合であっても、先行するAの相続放棄が遡って無効になることはない、としました。
ただ、最高裁が明らかにしているのはここまでです。

再転相続が生じている場合には、そのケースが本当に再転相続のケースに当たるのかどうかの判断自体が難しいのに加え(熟慮期間の始期が第三者には分からないためです。)、それぞれの相続の選択権の行使の順番やその影響について、非常に複雑になっているケースが多いため、注意が必要です。

例えば、被相続人の相続人が、再転相続人の相続人でもある場合に、当該相続人が被相続人の相続を放棄した後に、再転相続が発生して当該相続人が再転相続人にもなっている場合(具体例で考えると、親が子の相続を放棄した後に、放棄により再転相続人となった祖父(祖母)が死亡して、子の親が祖父(祖母)の相続人になった場合)、被相続人の相続人は、再転相続人の相続人として再度の相続放棄の手続を取ることを要するのかについては、理論上は定まった見解がありません。

他にも、再転相続人の地位を複数の相続人が相続した場合に、被相続人についての相続の選択権はどのように行使されればいいのかとか(個別に行使できるのか、全員でないと行使できないのか)などの問題もあり、非常にやっかいです。

執筆者:高村 至

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。