当然には減額されない。賃料は、店舗を一定期間賃借人の使用収益が可能な状態に置いたことに対する対価であり、賃借人が店舗で実際に収益を上げるかどうかにかかわりなく発生するものだからである。

もっとも、賃借人が倒産や退店に追い込まれた場合には、賃貸人も不利益を被ることから、賃料の一部減額又は支払猶予をすることは広く行われている。

詳細の説明は下記のとおりである。

賃貸人は、目的物を賃借人に引渡し、かつ、賃貸借関係の存続する期間中これを使用収益に適した状態におかなければならず(我妻栄「債権各論中巻一」443頁)、賃料は、目的物を一定期間賃借人の使用収益が可能な状態に置いたことに対する対価として発生するものである(司法研修所編「民事訴訟における要件事実 第2巻」6頁)。

したがって、賃料債権が発生するためには、目的物が客観的にみて使用収益に適した状態にあったか否かが問題となり、賃借人が目的物の使用収益をなしうる状態にあれば、賃借人が現実にこれを使用しなくても、賃貸人は賃料を請求することができることになる(大判明治37・9・29、大判昭和9・9・8。以上、森田宏樹「債権法改正を深める」[有斐閣、2013年]112頁~117頁)。

次に、民法は、「使用及び収益」と規定しているが、これは使用と収益を区別する趣旨ではない。使用だけを目的とする場合でも賃貸借である。ドイツ民法やスイス民法は、使用だけを目的とするものを使用賃貸借、使用と収益を目的とするものを用益賃貸借としている(我妻栄「債権各論中巻一」415頁)。建物の賃借は前者、農耕地の賃借は後者となる(同424頁)。すなわち、民法601条外が規定する「収益」とは、農耕地など物から収益を上げることを意味しており、賃借人が建物(店舗)を使用して事業収益を上げることを意味しているわけではない。したがって、客観的にみて目的物の使用収益をなしうる状態にあれば、賃借人が現実に賃借物(店舗)で営業しなくとも、「使用及び収益」をしていることになり、賃貸人は賃料を請求することができるのである。

これに対して、民法611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)や民法536条(危険負担)を適用して、賃料の減額を肯定する見解が唱えられている。

しかし、前記のとおり、客観的にみて目的物の使用収益をなしうる状態にあれば、賃借人は現実に店舗で営業しなくとも、「使用及び収益」をしていることになるから、「使用及び収益をすることができなくなった」(民法611条)とも、賃貸人が使用収益させる債務を履行することができなくなった(民法536条)ともいえず、いずれの規定も適用することはできない。また、類推適用の基礎も欠いている。

以上のことから、賃借人が、行政からの休業要請によって休業した場合であっても、客観的にみて目的物の使用収益をなしうる状態にある限り、その対価である賃料が発生することになる。

これに対して、大震災によって建物が損壊し、倒壊の危険等があるために使用収益ができない場合や、原発事故等による放射線によって立ち入り禁止区域に指定された場合などは、客観的にみて目的物の使用収益をなしうる状態にあるとはいえず、その対価である賃料は発生しないと考えることになる(裁判例として、大阪高判平成9年12月4日判例タイムズ992号129頁がある)。

執筆者:清水 俊順

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。